那珂の老舗酒造メーカー「木内酒造」(那珂市鴻巣)が、新型コロナウイルスの影響が拡大する中、高濃度アルコールの製造販売と飲食店向け救済プロジェクトに取り組んでいる。
同社の萩谷真千子さんは「新型コロナウイルスが流行し、緊急事態宣言の発令に伴い、手指消毒用エタノールの需要に対する供給が圧倒的に不足している。休業や自粛営業を余儀なくされ、賞味期限が迫るクラフトビールの在庫を抱える飲食店の『ビールを捨てるしかない、どうしようもない』という悲痛な声も聞いた。何とかしなくてはと思った」と話す。
石岡市八郷(やさと)に「八郷蒸留所」を建設し、今年3月、ウイスキー生産を始めた直後だった同社。「八郷蒸留所」の設備を使えば、消毒用エタノールの代替品となる高濃度アルコールの製造と在庫ビールを蒸留してクラフトジンに作り替えることができる。社内での決断から実行までスピーディーにできたのは、小さな酒蔵だからこその身軽さからの対応力によるもの」と萩谷さん。
ウイスキーの製造工程におけるポットスチル(単式蒸留器)から抽出した蒸留液を「ニューポット」といい、無色透明でアルコール度数は65~70%と高い。アルコール度数を70%に高めた高濃度アルコールの商品名を「NEW POT 70」として4月26日、オンラインショップと直営店で販売を始めた。現在までに、300ミリリットルボトルで3万本以上を出荷。那珂市内の地方公共団体には無償で寄贈した。
飲食店から集めた在庫クラフトビールを原料とし、蒸留して「クラフトジン」を製造し、無償で返すプロジェクト「SAVE BEER SPIRITS」にも取り組む。既に全国から70件の問い合わせがあり、集まったビールは約2万6000リットルを超えている。在庫ビールは6月20日まで受け付け、できあがった「クラフトジン」は6月中旬から、それぞれの飲食店に発送予定。
萩谷さんは「個人で在宅介護をしている方などは、なかなか消毒用品が回ってこないと困っていたところ、『外出しなくてもネットで数量制限なしで買えて助かった』との声が寄せられた。ジンは、賞味期限は無く、カクテルの材料として使えることから、再開した店の一助となる。日頃から世話になっている地元、お客さま、飲食店に寄り添う酒蔵でありたい。また新しい何かにチャレンジしていきたい」と前を向く。