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【特集】MITO LIVING ISLAND 水戸のアタラしいまちなかデザインvol.1

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(左から)三上事務局長、金会長、中山委員

水戸まちなかの再生に取り組む官民連携エリアプラットフォームとして昨年度設立された「水戸のまちなか大通り等魅力向上検討協議会」が今年の3月、「MITO LIVING ISLAND-挑戦心を育む、コンパクトなまちなか暮らしを取り戻す-」をコンセプトとする未来ビジョン素案を作成。車から人中心の、歩きたくなる都市空間の再編に向けたビジョンの妥当性を検証するための実践企画第1弾として、屋外空間の整備、快適な居場所(=“まちなかリビング”)づくりを行う試行・実証実験が始まった。

今年の試行・実証実験では「裏通りの安全性が低い」「歩行者が滞在できる、滞在したくなる居場所がない」「まち歩きの回遊性が弱く、歩く習慣がない」の3つの課題解決策に向き合う。試行・実証実験に向けて、協議会の金利昭会長、三上靖彦事務局長、中山佳子専門委員の3人が「水戸のまちなか」について語り合った。


-簡単に今回の取り組みの経緯をお聞かせください。
 
(左から)中山委員、金会長、三上事務局長


金:これまでの日本のまちづくりは、行政はもちろん努力してきたけれど、やはり限界があった。一方、民間は民間で、住民運動に始まっていろんな取り組みがあった。それでもこれからのことを考えると、行政だけでは及ばないところがあり、民間だけでは及ばないところがある。水戸も同じ。何とかしなければいけないと皆が思っていたところ、国が官民連携事業の制度をつくった。私たちの取り組みは、いいタイミングでこの事業にのることができて、今のところうまくいっていると感じる。そう思う一番の理由は、協議会にはまちづくりに必要な人材がうまい具合に集まったと思っている。なので、これを何とか持続可能なものにできたらな、と思っている。

 

-持続可能にするには何が必要だと考えていますか?

 
まちなかに並ぶ「MITO LIVING ISLAND」フラッグ

金:昨年度と今年度の2年間は、国の補助金が付いているため、今のところ直接的な活動経費は何とかなっている。もっとも人件費までは出ていないので、皆が手弁当でやっているところは限界がある。今後、人や組織が自走できるようになるには、最低限、様々な経費が継続的にどうにかならないと難しい。もう一つは、水戸まちなかの再生自体が自走すること。

中山:今回、水戸読売会館ビルのオ-ナ-は象徴的な人だった。当初、MITO LIVING ISLAND構想をとりまとめ10年位のステップフロ-を考えていた時、不動産オ-ナ-の巻き込みには、3、4年位かけてやっとできるものだと思っていた。ところが、いざ始めてみると、未来ビジョン素案をリリースしたシンポジウム後、たった3カ月で「取り組みに共感した。僕のビルを実験会場に使っていいよ」と言ってくださった。移住された直後、我々の取り組みチラシをたまたまカフェで手に取り、シンポジウムの動画を何度も視聴してくださったという。奇跡的だった。水戸まちなかの土地や建物を所有するオ-ナ-の事業とまちづくりの方向性が合致し相乗効果を生み、未来ビジョンに向けて一体となることが功を奏せば、他のオ-ナ-も巻き込むことができる。実証実験の際には会場として場をご提供をいただくが、まちづくりと彼らの事業がコラボレーションしていくなかで浸透し、民間オーナーの事業による自走システムが循環するのが、理想の姿。

金:一番気になるのは市民ニ-ズ。まちなかを見ていると、楽しんでくれる人たちが本当にいるのか気になる。いくらいい音楽があってもそれを聴く耳がなければ楽しめない。楽しむ余裕とか土壌があるのかどうか、が一番気になる。

中山:ある意味、それを実験するのが今年の実証実験では。
 


地域に関わりたいという若者も多く参画する

金:自分が仕事をしていて忙しい時には、やることに追われていて、まちなかを楽しむ余裕なんてなかった。コロナ禍もあり、新しい生活スタイルにうまく当てはまれば、まちなかの空間で働いたり、のんびりしたり、仲間と交流したりといったニ-ズが増えるのでは。

三上:地域の中で継続的にさまざまな活動を進める上では、地元の方々の理解も大切。口説くのが大変と言われていた飲食店の方などもいらっしゃったが、今回の取り組みの趣旨を丁寧に説明すると、すごく協力的な姿勢を示してくれた。お客さんにニ-ズを聞いてみようか、とか、協賛金を出そうか、とまでおっしゃっていただいた。



まちなかに生まれたスペ-ス

中山:この対談の前に実証実験会場の屋外空間で作業をしていたら、近くのOLさんが来てお昼ご飯を食べていた。上司に気をつかわず過ごせるお気に入りの場所なのだという。パンデミックによるライフスタイルの変化によって、まちなかのポテンシャルは出てきたのでは。昭和の頃から現在の少し前までは、まちなかは業務・商業の集積によるハレの場で、週末に遊びに行く場所だったが、最近は週末には郊外の大型ショッピングモールがその役割を担っており、まちなかは役割を見いだせず、駐車場だらけになってしまった。未来ビジョン素案では、住まうと共に働く・学ぶ・遊ぶがミックスしたライフスタイルを提示しており、まちなかは毎日の暮らしのなかで、目的がなくても散歩したり佇んだりすることが楽しくなるような、そんな場所があちこちにあればと思う。
東京でもウォーカブル事業に関連する社会実験が進んでて、丸の内をはじめあちこちで実施されているが、日中パソコンを広げて作業をする人が8割ほどいた。まちなかの役割は変化している。


金:まちなかが大きな役割を持っていると私も思う。でも、その場が水戸ではできあがっていない。

三上:水戸でいろんな取り組みをしてきていたが、これまでは若手がついてきていなかった。今回の取り組みでは、優秀な若手が表に出てきてくれた印象がある。水戸にはかなりの人材がいる。さすがは水戸、という感じがした。今ならできるのでは。

金:水戸に関わりのある人材が活動をしている。従来は自分事でない印象があった。しかし今回は、危機にある水戸を何とかしたいと思う人たちがつながり始めている。

 

実証実験の準備も手弁当で進めてきたという


中山:私自身、昨年10月から中心的に携わってきたが、高校までずっと住んでいた地域ということもあり、思い入れが強かった。建築や都市デザインの設計・コンサルタントをいろいろな都市でやってきたが、自分の地元の衰退ぶりをただ見ているだけなのをもどかしく思っていた。この機会をなんとか良い形にしたいと思い、まずはやれるだけやろう、との気概で今までの知見、人脈、時間を投入しフルコミットしてきた1年弱だった。
いくら地元出身とはいえ、いきなり提案をぶつけても、「東京の姉ちゃんが何かやってるぞ」と地元に反感を買う可能性がある。その辺りの露払いを、三上さんはじめ、長く地元で活動されている信頼関係を持つ方々が担ってくれた。

金:各方面の人材が全てがうまく集まった。この機を逃したらもう次はないと思っている。皆がそのように感じているのでは。
それから、他の街では大学と行政と民間でまちづくりに関する懇談会をして議論を深める場がある。でも水戸では、それができていない。そうした場もつくりたい。

中山 水戸まちなかデザイン会議は、シンポジウムの反響を受け未来ビジョンに共感した誰もが参加できるオープンなプラットフォームとして始めた。18歳から68歳まで、官民産学の自分ゴト有志に集まっていただき、毎回参加者が増えている。シンポジウムを含めると、その数は250名を超える。たくさんの人たちから、水戸まちなかを改善したいという想いを感じる。奇跡的な出会いも毎回生まれている一方で、最初は大きな熱量とともに提案を頂いていても、残念なことにドタキャンされてしまうケースもある。でも現時点では、契約関係はないから追及できない。また、これは水戸に限った話でもないけれど、まちづくり活動へ割く時間や提案はボランティア活動がベース。単発プロジェクトの連続に終始しがちで、長い計で見た際の目標設定や到達、責任を負わせることは出来ない。そういう意味で、この取り組みにおける未来ビジョン素案が官民で真に共有されるものであるならば、主体の明確化と組織化は重要だと思う。

 
デザイン会議で実証実験の会場清掃ワークショップを実施

金:まちづくりを行うための資金を出し合う仕組みがないものか。

中山:都心3区の中で長く実績をもつエリアマネジメント団体は、沿道地権者を中心とした協議会の構成員費や賛同する方からの寄付金、そこに主体となる民間不動産会社の資金や国等からの補助金を加えて運営資金を捻出している。
当該エリアに土地や建物などのアセットを保有する、官民の地権者が資金の提供主体となり、専門性を持つチームが実働主体となるのが本来あるべき姿の一つだと思う。


-シビックプライドの高さとまちを使う、楽しむ姿勢は比例するのでしょうか。

中山:比例するのでは。都市を歩く中で当たり前に入ってくる、空間や風景などの非言語情報はすごく大切。水戸まちなかでは例えば、お濠や崖線の緑、外周にいけば見渡すことのできる広い空や那珂川や千波湖の水景。これらは水戸っぽのアイデンティティとして染みついているはずで、その感覚を言葉にして気付くことも重要。その考えを「MITO LIVING ISLAND」に込めている。都市空間を日常生活の中で使いこなしたり、意識することで地域愛着が生まれ、シビックプライドは高まるのだと思う。
また、水戸まちなかデザイン会議の中で、実証実験の会場をみんなで清掃するワークショップを数回実施したが、清掃前後で見違えるように美しくなった空き地を我が家のように捉え、愛着を抱いたメンバーがたくさん居た。空間のみならず、人と人の結束も強いものになっていることを実感した。
これらを通じ、所属する組織や立場にとらわれない、偶発的な出会いを起こすために屋外空間を人の居場所に設えるのだと再確認できた。
実証実験中に起こりうる、そうした体験を通して、みんながより水戸を好きになってほしい。

三上:水戸のまちなかは、たくさんの、しかも特徴的な歴史の積み重ねで出来ている。水戸の人はもっと歴史を勉強するといい。歴史を勉強すればするほど水戸を好きになれる。

-今後の活動に向けて考えていることを教えてください。
 
(左から)「水戸のまちなか大通り等魅力向上検討協議会」三上事務局長、金会長、協議会専門委員で一級建築士の中山委員、事務局大森さん


金:一番の試金石になるのは、歩行中心の移動や生活=ウォーカブルに転換できるかどうか。今までの車社会からウォ-カブルな社会の方がいいと思えるかどうか。それができなければ全てうまくいかない。

中山:車中心のライフスタイル自体はすぐには変えられないが、そもそも利便性の高いまちなかは、そこに住む人が増えればウォ-カブルに向かっていく。また、ウォーカブル施策を進めるには活性化という切り口だけでは限界がある。実証実験で注力した企画の1つである南町2丁目裏のストリ-トサインは通常、道路管理者と警察との協議が至難だが最短で実現できた。それには、水戸まちなかデザイン会議の参加者で実証実験の最大の功労者でもある水戸市都市計画部の部長をはじめとする方々の協議が功を奏しているが、これは協議のテーマが「活性化」ではなく、裏道の「交通安全性向上」であったからだと感じる。誰もが共感できる、都市空間の課題解決から、結果的に水戸まちなかの再生が少しずつ実現できるのではと考えている。

 

歩車共存を図る、ストリートサイン

官民連携未来ビジョンに掲げ、ビジョンに共感した誰もが参加できるオープンなプラットフォーム「水戸まちなかデザイン会議」を通して市民参加も促してきた同団体。
試行・実証実験「水戸まちなかリビング作戦」によって水戸市民には自主的に水戸まちなかを楽しむ土壌があるのか、ウォーカブルな屋外公共空間の需要はあるのかを検証する。水戸まちなかを改善したいと思う人が実際にアクションを起こし、その熱量が波及していくことを願うばかりだ。


(参考)
水戸まちなかリビング作戦 車から人中心の歩きたくなる都市空間再編へ(2021.10.07)
https://mito.keizai.biz/headline/1981/
水戸で「まちなかの未来やありたい姿」語るシンポジウム オンラインで開催(2021.02.19)
https://mito.keizai.biz/headline/1756/

 

文:藤川尚(茨城大学3年/水戸経済新聞学生記者) 
写真:髙橋葵(茨城大学4年/水戸経済新聞学生記者)、「水戸のまちなか大通り等魅力向上検討協議会」

リンク:
水戸のまちなか大通り等魅力向上検討協議会
MITO LIVING ISLANDプロジェクト
https://www.mitomachinaka.com/

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